***NO.2バージョン***



「きゃあ!王子様!!」

誰かの悲鳴でナンバー2ことホーギー・ギリガン・Jrがはっと気付いた時には、そこは広くて豪華なダンスホールの中だった。
周りではたくさんの着飾った人達が踊っていたが、先程の声で皆動きを止め声がした方を見ている。ホーギーから数メートル離れた場所のようだ。
同時に演奏も止まり、辺りはしんとなっていた。

「ここは・・・?ていうか、何が起こってるの?」
ホーギーは状況を掴めずにいたが、ざわめく人達を掻き分けて騒ぎの中心へ行くと、そこには仰向けに倒れたナンバー1と、その傍らで心配そうにしているナンバー3の姿があった。ナンバー1はやけに華美な服を着ていて、ナンバー3は周りの女たちと同様、明るい緑色のドレスを着ている。
「あれ、ナンバー1とナンバー3じゃないか。なんだろあの格好・・・ねぇ、何してんの?」
前半は独り言、後半は二人に問い掛ける形でホーギーが言うと、大きな目に涙を浮かべたナンバー3が震える声で答えた。
「王子様が・・・いきなり倒れてしまったの」
ホーギーは慣れた手つきでナンバー1の脈をみる。ついでに熱も。
「大丈夫、脈はあるし、熱も無いみたいだ」
そう言うと、ホールの中はほっと安堵の雰囲気に包まれた。
「・・・で、これは何のお芝居なの?ナンバー3」
ホーギーは当たり前のように問い掛けたが、ナンバー3の反応は意外なもので、
「え?・・・あなた、誰?」
と、きょとんとしながら答えたのだった。
「は?僕だよ、ナンバー・・・」
「おい、今主治医を呼んだぜ。もうすぐ着くはずだし、その前にどこかへ運ばないと。誰か手伝ってくれ。」
ホーギーの反論は後ろから来たナンバー4の声に掻き消され、むっとしながらも半ば反射的に名乗り出る。
「あ、僕手伝うよ」
しかしナンバー4は驚いて言った。
「まさか!オンナには任せらんねぇよ」
女?ホーギーが疑問に思っていると、窓に反射して映っている自分の姿が目に入る。
似合いもしない水色のドレスに、つけているゴーグルは妙に浮かび上がって見えた。微妙に化粧もしていると分かって、ホーギーは危うく叫びそうになった。
そこで思い出したのだ、シンデレラの任務のことを。
―――そうだ!きっと僕、シンデレラになったんだ!!
しかし、だとすると変な服を着てそこで倒れているナンバー1が王子ということになるが、そもそも王子が倒れるなんてそんなサスペンス的な状況がシンデレラの話にあっただろうか。

椅子が並べられたところへ数人がかりで運ばれていくナンバー1を見ながらぼんやりと考えたが、
「うーんでも・・・僕こういうミステリー系好きなんだよね・・・」
少しわくわくした感じでひとりごちて、折角だから犯人を見付けだしてやろうと決心した。

「軽い脳震盪ですな。頭の後ろにこぶが出来ています。」
呼ばれた主治医は、ナンバー1の様子を見て言った。年配の顔立ちに安堵の色が見える。急いで来たらしく、フロックコートは皺が目立ち、灰色の髪は少し乱れていた。
「こぶ、ね・・・」
だとすると、人が混雑したこの状態で誰かに後ろから殴られた可能性がある。
「殺人・・・とまではいかなくても、殺人未遂か・・・?」
呟いていると、ナンバー4が隣であっと小さく声をあげた。
「右手首に針を刺したような痕跡があるぞ!」
よく見ると、確かに右手の甲から少し離れた辺りにぽつんと赤い跡が見える。
「麻酔かも知れませんな」
主治医がフムムと唸る。針ならば上手く刺せば痛みも感じない。
「となると・・・ここから密かに麻酔を射たれて、暫くして全身に回る。もちろん足にも回るから感覚が麻痺して足がもつれて・・・」
すっころんで翻筋斗(もんどり)打って倒れて頭打って脳震盪、と。
「なんか・・・へぇ・・・」
ナンバー4が少し自重した呟きを残した。

「ともかく、そうなると犯人は王子と踊っていた、もしくはそれくらい接近していたという事になります。」
広いホールの中で、傍らに気絶したままのナンバー1を椅子の上で寝かせたまま、大勢の視線を浴びながらホーギーは声を張り上げた。皆には部屋から一歩も出ないように指示し、使用人達も集めている。
「じゃあ早速・・・聞き込みとかアリバイ探しとか犯人を絞り込んだりとかしてみよっか!・・・そこのワトソン君!」
「は?え、俺?」
ホーギーは妙にお気楽な声を出して、後ろに居たナンバー4に話し掛ける。いきなり違う名前で呼ばれたナンバー4は驚いたが、
「わ、分かった」
良く分からないまま雰囲気に押されて頷くと、王子と踊った女性はこちらへ、と振り分け作業に入った。
「実はこういうの憧れてたんだよねぇ」
その光景を見ながら、ホーギーは満足気にひっそりと呟いたのだった。



「あなたは被害者にうらみがあったようですね?」

容疑者1:トミー・ギリガン

「はい、何に関してかは僕も良く分かんないんだけど・・・この気持ちを例えるなら、大事な家族を横取りした奴らのボス、みたいな・・・」
ホールの一角、ついたてで区切られた即席の尋問室で、似合わない青色のドレスを着たホーギーの弟は真面目な顔で告げた。
「・・・じゃあ、王子をうらんではいたものの、踊ったのは偶然だと?」
「うん。まさかこんな近距離でチャンスが来るとは思わなくて、何の用意もして無かったんだ。」
「・・・」
「だから、あの時点では何もして無いよ?」
「・・・ワトソン君、次の容疑者を」


「だから、私がそんな事する訳無いじゃない!王子様のことは大好きなんだから!」

容疑者2:クキ・サンバン

必死に身の潔白を表すナンバー3に、ホーギーは冷静に対応する。
「しかしあなたは大貴族の娘で王子と婚約させられそうになっていた。それが嫌で何度も王子の命を狙っていた・・・という周りの証言があるんですが」
「確かに婚約は嫌だったけど・・・だってほら、お兄さんとしか思えないし・・・王子様の命を狙ったなんて嘘だわ!確かに一緒に遊ぶ度にお茶で火傷したり、
たっくさんのぬいぐるみの下敷きになって窒息しそうになったり、ビックレインボーモンキーに悪戯されて踏み潰されそうになったりはしたけど・・・わざとじゃないわ!」
「・・・。最近良く王子の愚痴をこぼすって聞きましたけど」
「だって最近王子様ったら私と遊んでくれないんだもの!」
「そりゃあ遊ぶ度に命の危険に曝されればね・・・」
「俺だったら女っぽい遊びってだけで御免だぜ」
「何か言った?」
「「いえ何も」」


「ナイジーはね、まさに私の理想の人なの!白馬の王子様って感じ!まぁ本当に王子なんだけど。あのサングラス!輝く頭!!大きなお尻・・・あぁ素敵!!!」

容疑者3:リジー

「頭のネジどっかに置いてきたんじゃねぇの・・・?」
「しっ静かに!また聞こえるよ・・・聞くところによると、あなたの部屋は王子の写真・・・じゃなくてこの時代だと肖像画・・・でいっぱいだとか」
小声で呟くナンバー4を同じく小声で制して、ホーギーは質問を続けた。リジーに似合う淡い黄色のドレスが、ナンバー1を熱く語るたびにゆさゆさと揺れ動く。
「そうよ!だって愛してる人だもの!肖像画だけでも常に傍に置いておきたいわ!」
「しかし王子には婚約者候補が居て、あなたが結ばれる確立は低いことは知っていましたよね?」
「知ってるけど、ナイジーは何が何でも私を選んでくれるって信じてる!」
・・・確かに彼女は報われない恋に暴発するタイプではあるが、今のところ報われないとは思っても居ないらしい。
「シロに近いな・・・ワトソン君次!」


「あの人アタシが居ないと何も出来ないんだよ」

容疑者4:アビゲイル・リンカーン

ナンバー5はナンバー1の身の回りも軽く担当している執事で、今日もナンバー1の手袋を替えさせるという一番実行に移しやすい役目を担っていた。
「・・・と、言うと?」
「大事な決め事をする時とかいつもアタシの意見を聞いてくるし、何でもアタシに任せてるから一人じゃ何にも出来やしないし、今日だってアタシが気付かなきゃ危うく着る服がカボチャパンツになるとこだったんだからね」
そう言うナンバー5の顔にはしかし、どこか親しみがこもっている。
「でも、王子の事は慕ってたんですよね?」
「まぁねぇ・・・あでも、こんなならアタシが王子になれば早いと思った事はあるかな」
「・・・」
「冗談だよ」


「うーん、一通り洗ってみたけど、これといった目立つ容疑者は居ないなぁ・・・」
その後も数人の容疑者と、何人かの話を聞いて書き留めたメモを見ながら、ホーギーは頭をぼりぼりと掻いた。行き詰まりというやつだ。
「おい!ごみ箱に女性用の手袋が捨てられてたぜ!」
「ワトソン君!」
ワトソンと呼ばれる事にすっかり慣れたナンバー4が、白い上質そうな手袋を持って走ってくる。
「この手袋の持ち主は居ますか?」
手袋を受け取ったホーギーは、持った手を高くあげて、まず容疑者達に聞いた。
「あ、私のよ・・・舞踏会中にやぶれてしまって、替えたの。」
ナンバー3がおずおずと挙手する。その手には確かに真新しい手袋がはめられていた。
ホーギーの手にしている手袋は実際少し破れている。
ナンバー3の発言を聞いて、辺りがざわざわと騒がしくなる。
「で、でも、本当にやってないわ!」
慌ててナンバー3が付け足したが、
「そんなの分かんないじゃない!きっとこの貴族が犯人なんだわ!」
と、どこからか野次が飛んできた。その声を皮切りに、一層ざわめきが増す。
「うーん・・・」
ホーギーはナンバー3の性格上彼女がやるとは思っていなかったので、考え込んでしまう。
「・・・そうだ、主治医さん」
「な、何でしょう?」
ざわめきの中、ホーギーの近くで一息つきながら一部始終を見ていた主治医は、いきなり話し掛けられて狼狽しながら答えた。
「これこれこーいう薬品とか検査役とか、持ってませんか」
「あぁ、ありますよ。丁度持ってます」


数分後、ホール中の人達が見守る中、ホーギーの目前の机には先程の手袋と、薬品が入った瓶があった。
「この薬品は、毒に反応すると赤い色を出す特別な薬です。」
ホーギーは皆に向かって告げる。
「僕は彼女がやったとは思えません。」
言いながら、ナンバー3を見る。
「だから、これで彼女が有罪かどうか確かめたいと思います。」
そして、皆が注視する中、おもむろに瓶を左手に持ち、右手の綿棒を漬ける。
薬品を綿の部分に吸わせた綿棒を瓶から上げ、机上の手袋へと移動させる際、左手に薬品が滴れた。

緊張が走る中、ホーギーは綿棒を手袋に万遍無く当てて―――

手袋は、赤くならなかった。

ほっとした声が辺りから漏れる。
しかし、

「犯人だ!」

誰かが叫んで、他の人達も徐々に騒めいていく。
「え?え?」
ホーギーは訳が分からず、薬品を付けた手袋と周りを見渡した。
「お前ッ・・・犯人だったんだな!!」
そう言って憎々しげにホーギーを見るのはナンバー4だ。
「は?」
「騙しやがって!」
その時ホーギーは初めて皆が自分の左手―――瓶を持っていて、先程薬品が滴れた―――に注目している事に気付いた。

手袋の指先は今や、赤く染まっている。

「!?」

待て待て待て、僕が犯人だったのか!?
しかし目が覚めた時には既にナンバー1は倒れていた・・・。
赤い本、KNDの任務、不気味なウサギ・・・記憶が駆け巡る。
赤い本は、おすましキッズから奪ったものだという。

周りに取り押さえられる中で、ホーギーは人込みの中にあのおすましキッズが立っているのが見えた気がした。

中世ヨーロッパの童話の中、いつもと変わらないすました服装で、いつもと変わらない無表情で。

合点がいくと同時に、ホーギーの視界がぐらりと揺れる。
意識が遠退いて――――






――――ホーギーが目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。

「? 僕は・・・」

机に座り、片手にチリドックを握って、開いた本に頭を乗せている。
寝ていたようで、あと少しのところで本に涎が滴れるところだった。

「・・・夢?」

目を擦りながら本を閉じる。ハードカバーの厚い本には「シャーロックホームズ」の文字が。

「こんな本読んでるからあんな夢みたのかなぁ・・・」

苦笑しながら、チリドックを一噛りする。

「あれ、ナンバー2。起きたのか」

見ると、ナンバー1が毛布を持って部屋に入ってきたところだった。

「うん、ちょうど今。」
「ならこれは必要ないな」
言って、毛布を小脇に抱える。
「夜は冷えるからな、気を付けろよ・・・っ痛・・・」
ナンバー1は少し顔をしかめて後ろに手をやる。
「どうかしたの?」
「あぁ、これ持ってくる途中で転んで・・・タンコブが。」
後頭部をさするナンバー1を見て、夢を思い出す。
ホーギーは少し可笑しくなった。

「あのさ、今夢見てたんだけど・・・」

そう言って先程のシンデレラ体験を話すホーギーとナンバー1の姿は、いつものKND
の日常そのものだった。


*FIN*

+++++++++++++++++++++
まさかの夢落ちです(笑
これケタイで書いたので、少し雰囲気違うかも・・・?違わないか。
2番って言ったら推理モノで、でもシンデレラで推理モノって落ちが付かなくなるから夢落ち。
つまんなくてすいません。ベタベタでごめんなさい。
でも他の4番や1番より骨組みみたいのがはっきりしたから書きやすかった。
5番と4番も書き途中で有るんですが、それよりも早くアプするとは思いませんでした(笑




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